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help リーダーに追加 RSS 映画の感想文 [38] サイドカーに犬

<<   作成日時 : 2009/01/08 22:15   >>

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【サイドカーに犬】
2007年
監督:根岸吉太郎
出演:竹内結子、松本花奈

あらすじ(ネタバレ)
 小学生の近藤薫は、母親が家出し、父の誠と弟の透の三人で暮らしていた。ある日、父の愛人のヨーコ(=洋子)という女性がアパートへやってきて夕食を作るようになる。薫は最初はとまどっていたが、コーラの味や自転車の乗り方を教えてもらうなど、次第にヨーコと打ち解けていった。
 ある日、ヨーコは誠と喧嘩をして別れようと思い、「私の夏休みに付き合って」と言って薫を誘い、二人で海へ泊まりにいった。ヨーコはやはり誠と別れることはできないと思い直し、「好きなものを嫌いになるのは難しいね」と言ってアパートへ帰った。しかし、家出していた薫の母が戻ってきたため、ヨーコはアパートから去っていく。
 薫は三十歳になってその夏のことを思い出す。エンドロールの最後に海で描いた絵が写される。楽しい思い出だった。

感想
 芥川賞候補の小説が原作らしいが、よくわからない話だ。あらすじは上記のとおり何となく見えるのだが、それ以上の中身が、ま〜〜〜ったくわからない
 話がよくわからないだけでなく、何故、映画として高い評価を受けるのかも理解不能。

 何がわからないって、主役のヨーコが意味不明だ。この女の身内や仕事や経歴などは一切語られないが、そういう話はよくあることで気にはならない。
 わからないのは、この女の中身だ。映画評などでは、陽気で奔放で破天荒で型破りで豪快な性格の今時の格好いい女性ということらしいが、ほんの少し奇行が目立つ程度の女でしかない。ドイツ製の自転車を乗り回すから格好いいとか思うなら、あまりに無粋な成金センスだ。素直にこの女の言動を見てみれば、自転車のサドルを泥棒したり(完全に犯罪)、子供に与えるお菓子を餌と呼んだり(人間を畜生扱い。人権上は大問題)、夜中に小学生を連れ出して散歩したり(児童福祉上は問題あり)、人の家に不法侵入したり(これもほぼ犯罪)、夜なのに犬を騒がせようとしたり(通常、迷惑条例などに違反)、親に無断で子供を旅行に連れ回したり(ほぼ犯罪。マスコミ的には別れ話でこじれた愛人の子供を誘拐したことになりかねない)など、常識はずれだが、それが「進歩的」だの「すすんでるぅ〜」だの「かっこい〜」といったものとはほど遠く、ただの無責任な変人としか思えない。何の魅力もない。
 一見格好よさそうなエピソードが語られているが、リアルな状況をきっちり思い描き、偏見のない目で見てみれば、しょうもないことばかり。ダッサ〜。
 まさか見た目が爽やかだから、ほぼ犯罪行為を犯しているにもかかわらず格好いいと感じるのかな? 外見だけで人を判断するって、どんだけ馬鹿ですか。

 一番、わかりにくいのは、このヨーコという女が、何故、誠に惚れるかというところだ。
 この誠という男、最低なのだ。おそらく脱サラし、妻から愛想を尽かされ、子供に何も説明せずに女をアパートに通わせ、ろくに子供の面倒もみない。仕事は中古車販売で車の修理なども行っているらしいので、子供の自転車の手入れなど簡単なことだと思うが、そういうことすらしようとしない。子供が無断で海へ泊まりに行っても、つまり一晩行方不明になっても何も心配しないし、帰ってきた子供を叱りもしない、冷酷で無責任な親だ。
 おそらく、この映画を観ている女性の多くは、自分が子供の立場だとしたら、自分に相談もなく家に女を連れ込む父親など許容できないと思う。また、そんな男を愛する女が格好いいとも思えないだろう。そんな女は、子供の人格など尊重しようとしない、優しさのかけらもない性格に違いない。愛人との楽しみのためなら子供の気持ちなんざどうでもいい、でも時には気まぐれで子供をペット代わりにして餌を与えて可愛がったりする……そういう女だと思うのではあるまいか。
 この男、私生活だけでなく、仕事もロクでもない。中古車販売といっても盗難車を扱っている。しかもヤバイ仕事は人に押し付けるような卑怯者で、その筋の連中からも軽蔑されている人間のクズだ。揉め事からは逃げ回り、仕事で失敗して知人に迷惑かけて殴られてもヘラヘラするだけのカス人間だ。車でヤバイもの(盗んだナンバープレート)を運んでいるときに、一時停止違反でパトカーに停められるという、想像を絶する超絶トンマだ。モラルも誇りも責任感も意地も知恵も根性も体力も何も持ち合わせていない。心も頭も体も中身は空っぽ。
 外見は不摂生に腹の出た中年男で、外身も虚しい。とりたてて女の扱いが優しいとか、うまいというところもない。
 何故、竹内結子演じるヨーコがこのクズ男に惹かれるのか、まったく謎なのだ。映画では全然表現されていないが、おそらく男根が巨大なのか、あるいは性行為がよほど上手なのか……ぐらいの下世話な想像しか働かない。(この映画を観ていて想像が下世話になる理由は、後述のとおり)
 当然、ヨーコもクズ女にしか見えてこなくなる。

 次にわかりにくのは、薫だ。この映画は、薫の回想という構造になっており、主役の一人なのだが、この薫がまたさっぱりわからない
 映画の冒頭は三十歳になって働いているところだが、さほど仕事の不動産販売に意欲があるわけでもなく、適当に有給休暇を取ったりする。暇つぶしは釣堀通いだが、たいして釣が趣味でもなさそうだ。結婚する気配もない。そのくせ、仕事の客から「やらせろ」もどきのことを言われるほど(劇中の台詞は「接客態度が悪かったから食事に付き合え」)、男に対して隙だらけの女らしい。
 しかも、子供時代は友達が一人も登場しない。家が裕福ではないからということらしいのだが、友達の有無と貧乏かどうかなど関係ない。母親に禁止されたコーラの味をこっそり一緒に試すような友達がいないって、何と不幸な身の上なのだろう。僕は、コーヒーも酒もタバコもエロ本もエロ映画もパチンコも、小さい頃は親からダメと言われていたが、すべて友達と一緒に密かに楽しんだ。子供の時代の友達とはそういうもんだと思う。コーラの味を父の愛人に教えてもらうエピソードが爽やかに思える人って、精神的に病んでいるんじゃないのかな。たぶん、友達がいないのは、薫が餌で飼われたペット=犬と思わせる伏線なのだろうけど、おかげで薫がどんな子供なのかさっぱりわからないのだ。
 この役もやはり空っぽで、何の魅力もない。

 ヨーコ、誠、薫という主役三人が全部魅力がないし、たいした事件もないし、どういうお話なのかさっぱりわからないということだ。
 設定に無理があるのかもしれない。全体が薫という小学生の目を通して語られるので、男と愛人という際どい話、奔放な女(?)の際どい部分が、すべて直接は見えないことになっており、映画を観る者はあれこれ妄想することを強要されてしまう。そういう想像力がなければ、二人の女の心の触れ合いや変化を描いた「は〜とうぉ〜みんぐ」な映画ということになるのだろうけれど、この映画を観てそう思う人って、……。

 ここまではお話に関することで、原作を読めばずいぶん印象が変わるかもしれない。しかし、映画だけ観れば、話は完全につまらない。

 ここからは、映像についてだ。
 で、この映画について一番印象に残ったことを一言で言うと、
  この映画は、パンチラまんげ鏡
ということ。
(といっても、監督がロマンポルノ出身というのは一切関係ない(きっぱり)。そういう目で見たら偏見だ)

 映画の半ばで、薫が股を開いて椅子に座り、身体をのけぞらせて万華鏡を覗くというシーンがある。薫は劇中でほとんどショートパンツをはいているのに、なぜかこのシーンだけはスカートだ。まさに股間を見ろという演出なのだ。
 うっかり、そういう映像になったということなどあり得ない。ほんの数秒のシーンであろうと、作るときはその何十倍、何百倍もの時間をかけているし、体の動きは演出で指示されているし、撮影後も編集できっちりチェックする。特にパンチラや胸チラなどは重要チェック項目で、背景のエキストラでもない限り、編集で見落とすなどあり得ないのだ。映画とはそういうものだ。このシーンは意図的なパンチラのけぞり股開きだ。小さなウィンドウで見たら万華鏡がペニスのようで、あたかも小学生のフェラチオのようにも見える。
 なんで、こんな演出をしたのか? 「この映画にはエロな要素が背後に隠れているよ」ということのヒントだろう。撮影現場は、与えられたシナリオがいい加減アホらしくなったんじゃなかろうか。隠微な匂いのしない男女の仲、それも愛人関係など、撮ってて馬鹿馬鹿しい限りだと思う。逆に、とことんセックスレスの愛人関係という話であれば、それはそれで何ともモダンだねえと思えるが、それにしては男と女があまりに魅力不足だ。
 映画の中で薫は乳歯が抜けるのだが、表面上は彼女が成長していくことの象徴だ。ただし、この監督は、わざわざ歯がぐらついているときの出血を映す。指に血が付いている映像だ……ドアップで……わざわざ……血を。もちろん、これは初潮の暗示なわけだ。彼女は歯が大人になるだけでなく、父の愛人と接することで性的なところも大人の女へと成長していくのだ。当然のことだが、パンチラまんげ鏡も、発毛の暗示だ。

 この映画では、冒頭の伊勢谷友介、途中の椎名桔平、ラスト近くの温水洋一という3人の男優が出てくる。伊勢谷と椎名は男の性的フェロモンがムンムンの役者だし、温水だって壮年男のいやらしさを充分表現できる役者だ。伊勢谷がミムラ(大人になった薫)を見るときの見透かすような目、椎名が竹内結子(ヨーコ)に詰め寄るときの流し目、温水が竹内結子(ヨーコ)と話すときのだらしない顔、これが映画として一番まともな芝居のような気がする。
 薫は伊勢谷が演じる客と一晩付き合ったのだろうか。そのエピソードの後が、何故『急な有給休暇で朝から釣堀』でなければならないのか。釣堀に行くシーンが必要なだけなら土日という設定でよかろう。
 ヨーコは椎名が演じる吉村に十万を渡したらしいが、現金なのか、十万円分のセックスなのか。ヨーコに金があるとは思えない。なにせ、たかが20万円ぐらいの当たり馬券を手切れ金と喜ぶほどだ。また、薫との会話から金について無計画な性格らしいこともうかがえる。
 ヨーコは温水が演じる増田と夜中に酒を飲むのだが、子供の薫が寝たあと二人で何をしたのだろう。薫が誠に電話するのを見た後の台詞が何故「おじさんたちと酒を飲む」でなければならないのか。心が優しい女なら誠や薫のことを思いやる場面だろう。「好きなものを嫌いになる」ために、つまり誠を嫌いになるために、おじさんたちと何かをしようとしているのだ。
 そして既に述べたとおり、誠はきっと床上手なんだろうけど、ヨーコが自慢する「硬い脚」をどういうふうに愛撫するのか。何故、ヨーコが薫に自分の足が硬いと自慢するエピソードが必要なのか。薫に「自転車に乗れるようになると世界が変わるよ」と言っておきながら、薫が新しい世界を見た様子もなく(別のシーンから「新しい世界」とは薫に友達ができるということでないといけないのだが)、変わるのは足の硬さだけということか。ちゃんと映画を見ると、この会話はヨーコが自分の体で一番自信があるパーツは足だと言うシーンでしかなく、それはもちろん性的な要素をはらんでいる。
 この映画は、製作会社はお上品な文芸映画を作ったつもりなのかもしれないが、現場はエロいことを想像する映画をこっそり作っていたということだ。大抵の映画評論家も、そんなことはとっくに気が付いているが、いろいろなシガラミから口をつぐんでいるのだろう。
 一つ一つのシーンを大切に見るなら、こういう感想にならざるをえない。
 一方で、ヨーコの上辺を格好良いと勝手に誤解し、自分の思い込みに不都合なシーンを見えないことにするなら、ヨーコと薫という二人の女の心の触れ合いや変化を描いた「は〜とうぉ〜みんぐ」な映画という感想になるかもしれない。

 竹内結子の演技は動きが少ないときは上手いけど、役そのものに魅力がないので、長く印象に残るようなものではない。しかも動きが大きい芝居ではあまり格好良くない。例えば、颯爽とドイツ製自転車を乗り回すという役なのだが、残念なことに竹内の身体バランスが悪いらしく、グラグラして危なっかしい。お上品なイメージのケイト・ブランシェットの『スキャンダル・・・』の自転車の乗りっぷりと比べても、かなり見劣りする。これでは、映像上はヨーコの性格が見えてこないし、とにかく見映えが格好悪いのだ。彼女の大きな芝居で一番印象に残っているのは、やはりCMのCCレモン砂漠編の変顔オチャラケと『リング』のビロンと口を開いた変顔死体だろう。
 ヘアメイクは最低で、とにかく絵面が汚らしかった。顔のメイクもニュートラルすぎて、意図的なのか○○○○なのかよくわからないが、少なくとも性格が顔に表れるといったようなシロモノではない。衣装は、薫のスカートがすべて。
 海へ行ったシーンも不満だ。海辺のきれいな景色を撮ることをあえて避け、汚いバス停や干物屋を映す。海は、エンドロールの末尾のとおり薫の楽しい思い出なのだが、薫が楽しいと思ったのは景色の美しさではなく、ヨーコと打ち解けたことだという点を強調したかったのかな。だとしても、やりすぎだ。

 最近の女性はこの映画のヨーコのような生き方にあこがれるのだろうか? 何の魅力もない男を愛するような女なのに。「それって、あなたも魅力がないってことだよ」と言ったら言い過ぎかな。
 見方を変えれば、好き勝手に夜の町をほっつき歩いた後、電話一つでサイドカー付きバイクでアッシーをやる誠のような男が、今どきの女性にとって都合のいい男ということになるのだろう。
 薫の妄想で、ヨーコが運転するバイクのサイドカーに犬の着ぐるみを着た薫が座っているというシーンがある。愛する者の左側に立ちたがる犬であり、麦チョコが餌の犬だという説明も劇中にある。『サイドカーに犬』の犬とは薫のことである……と思わせて、もちろん犬とはアッシーの誠のことだ。『サイドカーに犬』の「に」は場所を指定する格助詞ではなく、並べ挙げる意味の並立助詞なのだ。(たぶん)

 竹内結子の演技、いやそれ以上に伊勢谷、椎名、温水の気持ち悪い演技を見たい人、小学生のパンチラまんげ鏡を見たい人に、お勧め。


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