ハムイチの棲み家

アクセスカウンタ

help リーダーに追加 RSS 映画の感想文 [39] あるスキャンダルの覚え書き

<<   作成日時 : 2009/01/10 22:41   >>

トラックバック 0 / コメント 0

【あるスキャンダルの覚え書き】
2007年
原題:NOTES ON A SCANDAL
出演:Judi DenchCate (ジュディ・デンチ), Blanchett (ケイト・ブランシェット)

あらすじ(途中まで)
 街を見下ろす丘の上のベンチに一人の老女が座っている。その女性の部屋には、これまでに書き綴られたたくさんの日記が並んでいた。
 彼女はロンドンの学校の教師のバーバラで、厳格な性格のために生徒からも同僚からも疎まれて、孤独な生活を送っていた。その学校に美人教師シーバが赴任してくる。バーバラはシーバに昼食に誘われ、やがて二人は親しくなっていく。
 ある日、バーバラはシーバが15歳の男子生徒とセックスしているところを目撃するが、それを秘密にする代わりに、シーバの心に取り入って彼女を支配しようとする。しかし、シーバは生徒との関係を断ち切ることができず、またバーバラが可愛がる猫の死よりも息子の芝居を優先したため、バーバラは失望する。
 バーバラはシーバが生徒と関係を結んでいるという噂を流す。それはすぐに警察も動き出すスキャンダルとなってしまった。

感想(ネタバレ)
 久々にいい映画を観たという幸せな気持ちになれる。
 ただし、話そのものは醜悪なスキャンダルだ。この映画は孤独な二人の女のエゴの醜さを描いたものだ。

 まずは、ストーリー。
 孤独な二人の女性が主役だが、彼女たちが孤独であることに同情の気持ちは全然湧かない。
 バーバラは一人暮らしの教師だ。彼女はレズだが、好意を寄せる女性へ気持ちを伝えることができず、その様子を観察して自分の想いを日記(=「あなただけ(only you)」)に綴り、ささやかな喜びがあると星印を付けたりする。しかし、チャンスがあれば陰険な方法で相手を『支配』しようとする。ところが、想いが叶って相手が目の前で寝ていても脚に触れることも出来ない……触れればすべてが壊れるマヤカシの状況だとわかっているからだ。
 これまでにも何人もの女性を狙ってきたのだろう。冒頭の日記は確認できるだけでも43冊あるので、おそらくその程度の女性がこれまで彼女に獲物として狙われたということだ。最近の相手はジェニファーという女性で、裁判沙汰にまでなっている。バーバラには姉妹がいるが年に1度以上は会おうとせず、自分から遠ざかっている。定年間際の年齢なのだがバスルームの台詞から処女だとわかる。おそらく男も遠ざけてきたのだろう。
 彼女の孤独は自ら作った孤独であり、日記だけを「あなた」と呼ぶ妄想の世界に自ら引きこもっているのだ。しかし、内面は獲物を支配したいというエゴと執念がどす黒く渦巻いている。
 シーバは満ち足りた家庭を持っているが、精神的に孤独を感じている。ときどき自宅の離れに引きこもることがあるらしい。年の離れた夫、行儀の悪い娘、ダウン症の息子という家族構成だ。年老いた両親の面倒も見ようとしないような、いまどきの一部の日本人から見ると何ともストレスの溜まる家庭のように見えるが、こんな程度は成熟した欧米社会ではありきたりだ。
 シーバは愚かだが世間知らずではない。元パンクで若いころはさぞかしやりたい放題、パンク・ロッカーがやることはすべて経験済みなのだろう。今の夫と結婚するときも「ひっきりなしの情事」をするほど性欲が強く、前妻から男を奪い取った。なのに十代の娘がいるような年齢にもなって、中流家庭という境遇に何の不満があるのやら。いろいろ個人の事情があるにしても、生徒の人生を台無しにするような方法で自分の孤独や欲望を満たすなど許されることではない。
 こうした同情できない孤独な女性のエゴが噴出する映画というわけだ。

 バーバラはシーバの淫行&不倫という秘密を握ることで、彼女を支配しようとする。シーバは生徒との関係を止めるようとするが、淫らな欲望を抑えることができない。後で夫が言うとおり、せめて大人の男との間の不倫であれば法的な罪になることもなかったろうし、相手の生徒やその家族も人生が大きく狂うことはなかっただろう。そんな程度の理性も働かない馬鹿女なのだ。
 秘密はやがてスキャンダルとなる。警察の事情聴取が行われ、マスコミが殺到する。
 シーバは混乱し、家を飛び出してバーバラと同居する。内心狂喜するバーバラ。
 一方、シーバは自分自身がわからなくなる。バーバラの家に閉じ籠もっているときに、一人で若いころの格好などをしてみる。スカートから脚をむき出しにしたパンクな格好だ。そのときシーバはバーバラの日記を見て真実を知る。それは自分のことを書いた日記ではなかったが、以前にバーバラが付きまとったジェニファーという女性との関係を綴った内容であり、シーバはバーバラの本性を知るのだ。
 シーバはマスコミの前に姿をさらして「私はここよ」と叫ぶことにより、秘密を捨てて元の日常へ戻ろうとする。シーバを無言で家庭へ迎え入れる夫。それとカットバックしながら、新しい日記帳を買い求めるバーバラの映像。夫を見詰めるシーバの目と、真っ白なページから顔を上げるバーバラの目。うーん、緊迫のクライマックスだ。
 シーバの最後の姿は、夫に支えられている新聞の写真だ。おそらくその場所は裁判所だろう。彼女は刑務所に服役することになるが、心の孤独は終わったのだ。
 一方、バーバラは、映画の冒頭の丘の上で次の獲物を狙う。彼女の孤独とエゴは終わらないのだ。

 役者についても申し分なし。二人のエリザベス1世の共演だ。
 ジュディ・デンチ、恐いっす。レズでよかった。男の場合、こんなオバサンに観察されたり妄想されたりストーカーされたら、男をやめたくなるだろう。必見なのはバスルームの独白シーン。すごい。醜悪にして恐怖。目をそらさずに見て欲しい。
 そして、なんといってもケイト・ブランシェットの魅力。
 ケイト・ブランシェットといえば、大英帝国の女王様に妖精の国の王女様というイメージが強いのだが、この映画ではセックスシーンや殴り合いなど、いわゆる汚れを演じている。でも、どこか高貴というか、品が良いんだよね。労働者階級の学校の教師をしている中流階級の子女ということで、あまり品が良すぎるのは役作りとしては失敗になるのだが、ケイト・ブランシェットが演じると上品な香りを残しつつ違和感を感じさせない。ある意味、不思議な世界だ。ケイト・ブランシェットの特異な世界の中で90分間、緊迫した物語を見続けたといった印象だ。
 彼女の役は、元パンクロッカーという設定だ。離れの棚に若いころのパンクな格好の写真が飾られている。決して世間知らずのお嬢様ではないし、男遊びもたっぷり積んでいると思われる。1枚の写真でそういう性格と過去をきっちり語っている。この映画を観るうえでとても大事な写真だ。しかも、スージー・アンド・ザ・バンシーズ(Siouxsie & The Banshees)の『カレイドスコープ(Kaleidoscope)』のジャケットが映されたりすると、「おお、懐かしい! そういう設定か」とさらに納得してしまう。かつてのロンドンのスレッカラシの娘が、南フランスに別荘を持ち、ダウン症の子供を育て、社会参加を心がけるロンドンのありふれた中流家庭の奥様になっているのだ。瞬時の映像で、イギリスの現代史というか社会を描いているといったら、褒めすぎかな。
 ケイト・ブランシェットは一度だけ大変身する。赤紫のワンピースを着てスカートの裾をたくし上げ、股を開いて椅子に座って網タイツを履き、髪の毛をクシャクシャにし、太いアイラインを描き、真っ赤なルージュを塗る。うーん、似合ってない。でも、いかにもパンクの女の子という感じになっちゃうんだよね。不思議。
 これってシーバが自分自信を見つけるワンステップであり、とても重要なシーン。この後で真実を知り、「私はここよ」と、スキャンダルの取材の渦の中心で叫ぶのだ。

 2007年のベストの1本であることは間違いない。


画像
シーバの若いころのパンクな格好の写真


画像
うーん、似合わない。でもいかにも、いそう。


画像
自転車を走らせる姿も、どことなく高貴


似て非なる映画

  ⇒ サイドカーに犬 (お上品なイメージの役者が自転車に乗る淫らな女を演じる)

  ⇒ 人のセックスを笑うな (原作が文学賞候補で、主役が淫らな女と都合のいい男)


 ⇒ このブログのトップへ
 ⇒ にほんブログ村 映画ブログへ

設定テーマ

関連テーマ 一覧

月別リンク

映画の感想文 [39] あるスキャンダルの覚え書き ハムイチの棲み家/BIGLOBEウェブリブログ