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zoom RSS 映画の感想文 [106] GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊

<<   作成日時 : 2009/07/18 22:01   >>

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【GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊】
1995年11月
監督:押井守

===== あらすじ(途中まで) =====
 近未来の都会の夜空にヘリコプターが飛んでいる。
 公安9課のメンバーが、日本で工作を行った某国の外交官を暗殺するために待機をしていた。現場チームのリーダーである草薙素子(通称『少佐』)は、光学迷彩で自分の姿を隠し、高層ビルの屋上から飛び降りて、窓の外から室内の標的を殲滅した。
 公安9課は、治安維持のために非合法な活動を行う政府の組織だ。彼らの次の仕事は、日本で活動を始めた正体不明のハッカー『人形遣い(Puppet Master)』に対処することだった。
 人形遣いは電話回線から政府要人にゴーストハック(ネットワークに接続した脳へハッキングして、その人物の思考や記憶をコントロールすること)を行おうとした。素子たちはアクセスルートを逆探知し、ハッキングを行っていた男たちを捕らえるが、彼らは人形遣いに操られていただけだった。
 非番の日、素子とバトーは都会のすぐ近くの海でクルーザーに乗っていた。素子がダイビングから戻り、二人でビールを飲んでいる時、突然、何者かの声が脳内に届く。その声を聞くと素子は思いつめた表情になり、やがて一人で街を徘徊し始める。
 街に雨が降り始めたころ、メガテク・ボディ社の工場がハッキングされ、勝手にラインが稼動して女性型の義体が製造された。その義体は工場から逃走したが、交通事故に遭って胴体を破壊されてしまう。メガテク・ボディ社は政府関係の企業であるため、破壊された義体は公安9課に運びこまれた。そこへ公安6課の部長がやってきて義体の引渡しを要求してきた。
 彼によれば、その義体の中には人形遣いのゴーストが封じ込められているという。

===== 感想(ネタバレ) =====

● 大傑作なのに!
 映像とキャラクターが極めて優れた映画だ。世界観やストーリーも独創的なのだが、残念なことに台詞が駄目すぎて、かなり全体の印象が損なわれてしまっている。何とももったいない。

● 妄言満載
 この映画を一見すると、その台詞などにおいて何となく難解で哲学的な問答が繰り広げられているような気がするが、あまり中身はない。一つ一つの会話において、メタファーやアナロジーなどの上っ面の虚飾を取っ払って本意をむき出しにしてみると、ほとんどが妄言だとわかるだろう。

● 例 ― 『記憶』の無理解
 例えば、次のような人形遣いの台詞がある。
「種としての生命は、遺伝子という記憶システムを持ち、人はただ記憶によって個人たりえる」
 押井監督が、記憶の意味について混乱していることがはっきりと表れている。
 まず遺伝子は完結した記憶システムではない。遺伝子は記憶を留めているだけだ。記憶システムという場合、単に記録を留める機能だけでは不十分で、記憶を更新する機能と呼び出す(検索する)機能も不可欠。こんなことはシステムのイロハなのだが、まるでわかっていない。
 また、人の記憶を海馬が司さどる記憶のことと解釈する場合、当然のことながら『個人たりえる』もの、すなわち個性については脳の他の要素を無視することはできない。例えば最近人気の前頭連合野の働きのほうが、ヒトの個性を語るうえでもっと重要だというのは、現代の常識だろう。
 逆にヒトの記憶とは、前頭連合野などを生成する方法も含むのだと広く解釈する場合でも、生成されたものがなければ個人たりえない。つまり記憶だけでは個人たりえないのだ。この解釈では、さきほどの台詞は、「ただ記憶によって」を「ただ記憶だけで」という意味に摩り替えた詐欺まがいのレトリックになってしまう。
 どちらにしろ低レベルの詭弁であり、この台詞を聞いて公安6課の部長が「詭弁だ!」と反発する。当然だ。しかし押井がこうした珍妙なレトリックを楽しんでいることは疑いようがない。こんな駄弁に僅かでも知的な快感を感じるようでは、「ちっとも判ってない」と言わざるをえない。

● 例 ― 『ネット』の無理解
 押井の「コンピュータとインターネットが結婚したら子供が生まれたという妄想」がこの映画の発端らしい。そもそも一般的に妄想など珍妙なものだが、この発言は、押井がインターネットについて単なるエンドユーザーとしての理解しかないことが見え見えすぎる。どんな妄想を抱いてもかまわないが、それを公表するとなると話は別だ。表現の自由があるので公表も自由だが、公表する以上は批判という他者の表現の自由にさらされる責任を負わなければならない。このような妄想を大衆に披露するなど、コンピュータやネットの理解度が、駅前パソコン教室に通うお年寄りと大差がないと宣言するようなものだ。
 そもそもインターネットの場合の『インター』とは複数のコンピュータやシステムを結びつけるものという意味だし、インターネットの中核技術はIPネットワークにほかならず、IPネットワークの本質的デバイスはIPルータであり、IPルータはIPパケットのルーティング専用のコンピュータのようなものだ。またDNSはコンピュータに実装されるし、ファイアウォールにしても現実にはLINUXなどのコンピュータで構築することが多いのだ。コンピュータとインターネットの融合など何十年も前から現実世界で存在している話であり、それらの間に子供など生まれなかった。
 実はインターネットが存在する以前に、僕はデジタル交換機の設計に携わったことがあるが、その中心的なデバイスはマイクロプロセッサであり、素朴、というより今や原始的なネットワークである電話ですらとっくにコンピュータと融合していたのだ。押井の妄想の前段部分は当たり前過ぎてSFにはならない。

● 妄言のせいでトレンディドラマに堕落?
 そこで、映画はプログラムと人間との結婚という話になる。
 草薙素子はプログラムと結婚し、子供になって生まれ変わるというオチなわけだ。その子供は言う。

「ここには人形遣いと呼ばれたプログラムも、少佐と呼ばれた女もいないわ」

 したがって映画の半ばまでの最大の関心事は、素子は誰と結婚するのかということになる。そう見ると、まるでトレンディドラマっぽくて、哲学的な深遠など消え失せ、ペダンティックな臭いが上っ面に振りまかれているだけとわかるだろう。いや、結婚というのは正しくないな。『釣りバカ』のように『合体』とか、『ドラゴンボール』のように『ふゅ〜じょん』とか言うのがより近いだろう。やっぱり『融合』あるいは『完全な統一』と言うのが一番しっくりくるかな。

● バトーと素子
 いずれにしろ、その相手はバトーではありえない。だからといって人形遣いでもない。素子は人形遣いと融合したかのように見えるが、彼女が望んだのは人形遣いとの融合や合体ではなく、ネットとの融合であり、人形遣いはそのための媒介でしかない。人形遣いは素子がネットの世界へ行くためのインタフェースだったのだ。だからこそバトーは、素子が去った後も、彼女を待ち続けることになるのだ。素子が他の人間や個性に惚れてしまったのなら、もはや彼女のことを待つことはないだろうし、「2501」という合言葉も不要なはずだ。
 それでは、一方の素子は誰かに惚れるということはないのだろうか? テレビ版ではレズ仲間が出てくるし、SACの終盤ではバトーと寝ることを思わせるシーンもある。義体の触覚が忠実に作られているなら性感帯もあることになるし、脳の生理的な働きが一般の人と同じであるなら本能的に性欲も生じるはずだ。彼女が誰に対しても恋愛感情や性欲を持たないように見えるのは、彼女の持って生まれた性格によるものなのだろう。

● 人間とネットとの融合
 この映画の主題は人間とネットとの融合であり、それを通じて人間とは何なのかという問いが投げかけられる。ただし、その答は与えてはくれない。
 『AVALON』の感想で言ったとおり、そもそも押井の描く世界では人間とネットとの融合など不合理なことでしかない。

● 映像のすごさ
 以上のとおり、ペダンチックな台詞や妄想がずいぶんひどい映画なのだが、大枠の世界観やキャラクター及びストーリーは面白いし、映像もすばらしい。
 僕が一番鳥肌が立ったのは、ちょうど中間の辺りのシーンだ。
 まずは、クルーザーでの素子の独白。台詞の中身は上述のとおりしょうもないのだが、それを単なるボイスという楽器を使ったBGMだと聞き流せば、すごい映像だ。背景のビル群が広角レンズで捉えたかのように歪みながら迫ってくる。最初に見た時は、いい意味で、吐き気を覚えてしまった。
 そして、人形遣いの声が聞こえ、素子が虚ろに空を見詰める。そのとき、何かが変わり始めたのだ。
 そして素子自信も変わることを渇望するようになり、街中を進む船に乗り、ビルのガラスの向こうにドッペルゲンガー(自分の分身)を見る(これは一般に死の暗示だ。映画のラストで、これまでの素子は死に、ネットと融合した存在になる)。素子自信が街を徘徊し、やがて雨が降るまでのシーンは、とてつもなくすばらしい。民謡歌手によるBGMもとってもシュールな印象を与えてくれる。映像の面白さをそれだけでも楽しめる人、あるいは感傷的な場面が好きな人には、たまらないだろう。ただし、この映画を理屈っぽく見る人の場合は、やたら冗長で退屈なシーンに思えるかもしれない。

 自分がどういう感想を持つか、試してみてね。


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これから光学迷彩で姿を消す
ビル群と腕の同心円状の構図が古典絵画のようだ

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このシーンの背景は、吐き気を覚えるほどすごい。

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人形遣い (Puppet Master)

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「ネットは広大だわ」


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