ハムイチの棲み家

アクセスカウンタ

zoom RSS 映画の感想文 [367] Love Letter

<<   作成日時 : 2011/05/22 12:28   >>

トラックバック 0 / コメント 0

【Love Letter】
公開:1995年3月
監督:岩井俊二
出演:中山美穂、豊川悦司、酒井美紀、柏原崇

=== あらすじ(途中まで) ===
 神戸に住む渡辺博子は、冬山で遭難した婚約者の藤井樹の三回忌に出席した。帰りに樹の家に立ち寄ったとき、樹が中学を卒業する直前まで小樽に住んでいたことを知り、天国に送るつもりで、卒業アルバムに載っていた住所へ手紙を送ってみた。
 そこは今は国道になっているはずだが、なんと返信が帰ってきた。博子は、真相を確かめるために、樹の友人で今は自分にプロポーズしているガラス工芸家の秋葉茂と一緒に小樽を訪ねた。
 その手紙は、藤井樹と同姓同名の同級生の女性からのものだった。博子は樹の思い出を少しでも教えて欲しいと頼み、二人は手紙を交換するようになる。

=== 感想 ===

● 届くはずのない手紙
 2年前に死んだ婚約者のことが忘れられず、今は住んでいない住所へ宛てた届くはずのない手紙に返事が帰ってきた。それは天国からの手紙……ではなかったが、天国にいる婚約者が想いを伝えようとした手紙だった。

 この映画、トリッキーで、そしてとても切ない話だ。

● ラブレター?
 最初の文面はすごく重要で、『拝啓 藤井樹様、お元気ですか。私は元気です。渡辺博子』というものだ。
 これはとてもラブレターと呼べるような内容ではない。これに続けて博子と樹(女)は文通を始めるが、二人は愛し合うわけではないので、当然それらの手紙もラブレターではない。
 では何故タイトルは『Love Letter』なのか?
 最後に語ろう。

● 樹(男)の意思
 博子と樹(女)とのやり取りについては、文通にしろ、二人のすれ違いや学校の写真撮影にしろ、樹(男)の意思が働いていると見るべきだろう。
 樹(男)は、樹(女)に対して好きだという気持ちを伝え損なっていたことが最後に明かされる。自分の想い――その真実をどうしても見つけ出してほしかった。樹(女)が中学校の図書室へ行くことになったのは博子の頼みによるものだが、実は樹(男)が向かわせたものなのかもしれない。
 一方、樹(男)は博子に対しては一目ぼれの理由――その真実を伝えたかった。博子が樹(女)によく似た女性だからこそ、樹(男)は博子と出会ったその場で付き合いたいと申し出たのだ。樹(男)は博子を愛してはいるが、出会いのときの本当の気持ちを隠したままではいられなかったのだろう。

● 「元気」という文面
 博子の最初の手紙は『お元気ですか。私は元気です』という文面なのだが、博子は樹(男)が遭難した山に向かって、そっくり同じ言葉を叫ぶ。何度も言うが、とても重要な言葉だ。
 最初の手紙は天国に宛てたものだと博子は秋葉に語っていた。したがって「私は元気です」というのは、言葉を少し補えば「天国にいるあなたと違って、私は元気に生きています」という意味なのだ。
 死んだあなたと生きている私
 博子は、この言葉を記した手紙を天国に送ることによって、樹(男)への想いを振り切って、秋葉の愛を受け入れようとしていたのだろう。しかし、意外なことに返事が来てしまった……というわけだ。

● 松田聖子の『青い珊瑚礁』
 樹(男)は登山中に谷底へ落ちた後、松田聖子の『青い珊瑚礁』を歌い続けたという。それが彼の最期の肉声だ。
 秋葉は3回忌を欠席し、その夜に仲間たちだけで墓参りをしたらしいのだが、おそらく墓前で『青い珊瑚礁』を唄ったのではあるまいか。他の参列者がいる前でこの歌を唄うわけにもいかず、夜中に仲間と連れ立ったのだろう。それは樹(男)を慕び、弔う気持ちによるものだ。

 しかし、何故、この曲なのか?

 おそらくサビの部分の数文字が重要なのだろう。つまり
  ♪あー、私の恋は南の風に乗って走るわ
 主語は「私の恋」。「私」であって、「私たち」や「二人」あるいは「あなたと私」ではない。だからといって自分一人の恋心が、南風に乗って、あなたのいないどこかへ勝手に飛んで行ってしまへという意味でもない。
 これは自分の恋心が恋人に届いて欲しい、自分の恋心を知って欲しいと願う歌詞だと解釈できる。

 ところで、博子にとって樹(男)がこの曲を唄っていたというのは意外だったらしい。博子の前で唄うことはなかったのだろう。そして、樹(男)は婚約者である博子に対して、今さら自分の恋心を知って欲しいと願う必要性は低い。
 つまり、このサビの歌詞は、そのまま樹(男)の樹(女)への想いなのだ。
 そして博子は、樹(男)が死ぬ間際にこの歌を唄ったのは、自分に対するものではないと直感したのではあるまいか?

● 「元気」という叫び
 博子は一度は樹(男)の思い出に浸ろうとしたが、すべてを悟り、樹(男)が遭難した山に向かって「私は元気です」と叫ぶことによって想いを振り切ったのだ。
 博子は樹(男)の思い出が記された樹(女)の手紙を彼女の元へ送り返す。もはや樹(男)の思い出の品は不要だからだ。

● 博子と樹(女)の愛され方
 この映画では、こうした中学時代の隠された想いの話と、現在の博子と樹(女)の愛され方の話とが混在している。

 現在の博子は秋葉に愛されている。それは山のように包容力の深い愛だ。
 秋葉はガラス細工をするときに、『青い珊瑚礁』を口ずさむのが癖になっているらしいが、単に樹(男)を慕ぶというよりは、少し楽しげな表情に見える。彼も自分の想いが博子にもっと伝わって欲しいと願っているのだ。

 樹(女)は家族に愛されている。祖父が命掛けで彼女を助け、樹という名前の理由も知って、深い愛情を実感する。また、樹(女)と母は、マンションの台所を下見するときに、まったく同じ仕草をするが、さりげなく母娘の絆を描いているように感じられるシーンだ。

● 映像
 映像はとてもきれいだ。特に雪の風景が見事。
 全体的に手持ちカメラを使う割合が高く、また少し霞んだような絵が目立つ。ガラス工房やストーブを焚いた部屋ではオレンジの色合いが温かいし、昼は窓からの逆光を描くことが多い。窓の逆光とオレンジは、天国からの愛の象徴……かもね。
 一方、中学時代の明るい場面では、くっきりと鮮明な絵になる。また教室をわざわざ1階にして、窓の外の校庭の様子を描いて奥行きを表現しようとしていたりする(たいていの映画では校庭が見えないように2階以上の設定にしたがる)。
 いろいろと工夫している様子がうかがえる。

● 中山美穂
 中山美穂が博子と樹(女)の二役を演じている。二人は似ているという設定だが、きちんと演じ分けている。
 外見の違いといえば、耳を隠した清楚なショートカットか、耳を出した活動的なショートカットかという髪型の違いぐらいで、服装も(多少は趣味が違うけど)極端な差はない。それに対して芝居では、台詞のしゃべり方、普段の姿勢、動きの機敏さなどで、控えめな博子とマイペースな樹という性格の違いを表現しようとしているみたいだ。
 少なくとも、彼女が演じているのが博子なのか樹(女)なのか混乱する観客はめったにいないだろう。それほど二役の演技はすばらしかった。

 僕が最初に中山美穂に注目したのは彼女が中学生のときで、『花とゆめ』の読者プレゼントコーナーのモデルをしていた。その後『毎度おさわがせします』で演じた、利発で勝気な女子の役が強烈だった。何歳になっても、どんな役をやっても、どんな髪型をしてどんな服装をしても、要するに結局どうやっても彼女は美人なのだが、僕の好みを言えば、ボーイッシュな雰囲気のほうが魅力が増すように思える。
 この映画でも、中性的な容姿に魅力を強く感じる。例えば豊川悦司とのキスシーン――少し戸惑う横顔は、美しい少年のようにも見えて、妖しさも満点だ。

● 脇役
 脇役もなかなか魅力的で、秋葉茂を演じた豊川悦司は心の広さを感じさせるし、中学時代の同姓同名の樹役の酒井美紀と柏原崇もいい絵になっている。
 中学時代に樹(男)に振られる及川早苗を演じた鈴木蘭々は、ちょっと映画の雰囲気に合わないけれど、濃いキャラクターが印象的。
 光石研、塩見三省、酒井敏也といったお馴染みの役者も既に登場している。

● 図書
 この映画では、手紙に並んで、図書が重要なアイテムになる。
 及川早苗が振られるときの『エクソシスト』はご愛嬌。
 最も重要な本は、マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』だ。樹(男)は転校が決まったとき、自分が大切な時を失っていたことに気付き、それを取り戻したかったのだろう。しかし、その想いはすぐには届かず、何年もたってから博子を介して結実されることになる。

● 真のラブレター
 映画のラストにようやく『ラブレター』が登場する。
 それは『失われた時を求めて』の中にあった。(*1)
 樹(女)は樹(男)が自分に寄せる想いを知り、そして自分自身が樹(男)に寄せる想いに気付くのだ。

 しかし真の『ラブレター』はこの映画そのものだろう。つまり監督・岩井俊二から女優・中山美穂へのラブレターだ。
 この映画、中山美穂の魅力を記録するために作られたといっても過言ではないんじゃないかな。


画像


(*1) 実は、この最後のシーンは分かりにくいところがある。
 何故、秋なのか?
 春になって雪の下から隠されていた真実が現れた――といったような、ベタな設定ではないらしい。
 しかも松田聖子の『青い珊瑚礁』のように「南の風に乗って」きたわけでもない。
 はて?

 ⇒ このブログのトップへ
 ⇒ 映画(全般)ブログランキングへ
 ⇒ にほんブログ村 映画ブログへ
まあ、評論やレビューといったほどのものではございませんが。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

映画の感想文 [367] Love Letter ハムイチの棲み家/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる