ハムイチの棲み家

アクセスカウンタ

zoom RSS 映画の感想文 [406] 道

<<   作成日時 : 2011/09/15 00:49   >>

トラックバック 0 / コメント 0

【道】
――男は道を遠ざかる。心を照らす星、心を支える小石を残したまま――

原題:La Strada
製作国:イタリア
製作年:1954年
日本公開:1957年5月
監督:Federico Fellini(フェデリコ・フェリーニ)
音楽:Nino Rota(ニーノ・ロータ)
出演:Anthony Quinn(アンソニー・クイン), Giulietta Masina(ジュリエッタ・マシーナ)

=== あらすじ(ネタバレ。この映画は必見ですから) ===

 海辺に住むジェルソミーナは母や弟妹と一緒に貧しい生活を送っていたが、頭が弱くて何の仕事もできず、旅芸人のザンパーノに1万リラで売られてしまう。
 二人は三輪車に寝泊まりしながら、各地で大道芸を見せる旅を続けた。ザンパーノは胸に巻いた鎖を胸筋だけで千切るのが得意技で、ジェルソミーナにも芸を仕込もうとするが、太鼓を叩きながらの口上や下手な芝居ぐらいしかできなかった。女性としての魅力も乏しく、ザンパーノはしばしば彼女を街角に放置して、行きずりの女と寝ることがあった。ジェルソミーナはザンパーノの粗雑で乱暴な態度や、女のことに嫌気がさしていった。
 二人はしばらくサーカス団に加わることになるが、ザンパーノは綱渡り芸人のイルマットと喧嘩して、警察に捕まってしまう。困惑するジェルソミーナを、1日早く釈放されたイルマットが励ました。
「こんな小石でも何かの役に立っている。空の星だって同じだ」
 この言葉でジェルソミーナはザンパーノの役に立つ人間になろうと決心し、街を出発するサーカス団の誘いを断って、警察署の前でザンパーノが釈放されるのを待つことにした。
 翌朝、二人は旅を再会するが、ザンパーノの素行は改まらず、親切に泊めてくれた教会で盗みを働こうとしたうえ、道中で偶然再会したイルマットを殴り殺してしまう。
 その場はイルマットの死体を隠して立ち去ったが、ジェルソミーナはいよいよ様子がおかしくなり、とうとう大道芸の助手も務まらなくなってきた。ザンパーノはジェルソミーナをやっかいに思い、道端に野宿して眠っている間に置き去りにしてしまう。
 数年後、別のサーカス団の一員となったザンパーノは、まだ同じ技を見せ物にしていた。昼間、海辺の通りを散歩していると、ジェルソミーナが好きだったメロディを洗濯女が唄っている。その女から、4〜5年前にジェルソミーナが近くの海岸で保護され、しばらくして死んでしまったことを聞かされた。
 その夜、ザンパーノは酒場で荒れた。そして浜辺をさまよい、やがて真っ暗な星も見えない砂浜で、砂を掴みながら、一人号泣するのだった。

=== 感想 ===

● ワイン5本分
 1万リラで娘を売る。劇中では、ワイン2本が4200リラというシーンがあるので、ジェルソミーナの価値は安いワイン5本分だ(*1)。

 ジェルソミーナは、映画の設定として頭が悪く醜い女とされている。僕の場合、こういう設定は善し悪しで、どうしても感動が薄れがちなため、この映画でも涙を流すことはなかった。
 だけど心の中は何とも酸っぱいもので一杯に満たされている。見終わった後の余韻が強烈なのだ。
 おそらく、この映画を観た誰もが、人間とは何か、生きるとは何かと、しばし考えざるを得なくなるだろう。
 すごい映画だ。

● 名前の意味 ― ジェルソミーナ
 この映画は象徴が多いのだが、まず主役たちの名前からして意味を持っている。

 ジェルソミーナはイタリア語でジャスミン。その花言葉は「素直」「可憐」などだが、「二人で遠くへ旅を」「私はあなたについていく」という意味もあるらしい。この映画の主役そのままではないか。
 彼女は自分自身を醜くて料理もできないと卑下している。旅芸人そのものは楽しいと思うけど、粗野で自分勝手なザンパーノを嫌い、二人で旅することを嫌う。だが、やがて彼の役に立ちたいと願い、彼についていこうと決心するのだが……。

● 名前の意味 ― ザンパーノ
 ザンパーノは悪漢という意味らしい。
 確かにのっけから人身売買はするわ、暴行、窃盗、殺人と悪事の連打だ。ジェルソミーナに対しても辛く乱暴に接する。とはいうもののジェルソミーナが尽くそうとした相手だけに、僕は彼があまり悪者に思えないのだ……彼は間違いなく犯罪者だというのに。困ったものだ。
 ザンパーノは気ままに旅をしながら芸を見せて金を稼ぐ。たまにサーカスに加わることはあるが、長続きはしない。奔放に生きることしかできないのだ。ジェルソミーナのことを、芸の道具や性の捌け口のようにしか思っていなかったのだが……。

 なお最後のシーンの彼の咆哮は孤独によるものだけではなく、後悔によるところが大きいと思う。
 そもそも彼は自分自身を孤独と感じていなかった。一人で旅するのが好きだし、各地に旧知の芸人仲間がいる。行きずりの女とも簡単に親しくなる。ジェルソミーナを捨てた後も、サーカス団の女がザンパーノに色目を使っている。女のほうから言い寄られるタイプの男なのだろう。
 彼は大切なものを無くしたことに気づいたとき、初めて孤独を知り、後悔するのだ。

● 名前の意味 ― イルマット
 イルマットは狂人という意味だそうだ。
 彼は他人の芸の邪魔をするという最低最悪のことをしでかす。これではひどい目にあっても致し方なかろう。一方で、ジェルソミーナを優しく励ましたりもする。
 後述のとおり、ジェルソミーナにとって彼は天使の役回りだと思う。ジェルソミーナは天使に導かれて一度は “道” を見出すが、天使の死によってその “道” は消えてしまう。

● 象徴 ― 道、海、焚き火
 映像上も象徴的な要素が多く、それが繰り返し場面に登場する。
 そもそもタイトルの「道」がそうだ。旅する三輪車の車内から見た、前方にずっと伸びる道の映像が何度も映される。「道」は主役二人の旅そのものであり、人生の象徴なわけであり、もしかしたら『人の道』という倫理的な意味も持つのかもしれない。

 次いで多いのが「海」あるいは「砂浜」だろう。
 「海」と「砂浜」はジェルソミーナの生まれ育った環境であり、彼女が癒しを感じる対象だ。彼女は海を見つめ、砂浜を歩くのが好きなのだ。彼女は家族と別れるとき、じっと海を見つめる。おそらくザンパーノに捨てられたと知ったときも、あの最後の砂浜でじっと海を見つめていたのだろうし、“冷たくなっていた”朝も、海を見つめたまま亡くなったに違いない。
 ザンパーノも砂浜を裸足で歩く。そしてラストシーンは言わずもがなだ。

 これと同じくらい「焚き火」も重要だ。
 これは心の温もりや愛情の象徴だろう。ラスト近く、ジェルソミーナが捨てられる少し前のシーンで、寝入る彼女が
「薪(たきぎ)が足りないわ。火が消える」
と言う。おそらく、ザンパーノが自分へ寄せる思いが、もはや完全に消えかけていることを本能的に察知しているのだろう。
 最初は気が付かなかったが、2度、3度とこの映画を観ると、彼女のこの台詞が一番悲しい。
 というのは、その直後、ザンパーノが三輪車を押して逃げ去る時、消えかけていたはずの焚き火が炎を上げているのだ。おそらく薪を足したのだろう。焚き火が心の温もりや愛情の象徴だとすれば、ザンパーノにはわずかな愛情があったということになる。

● 象徴 ― 尼僧
 ほかにも尼僧(及びキリスト像)やサーカスというのが何度も登場する。
 これらはこの監督にとってはお馴染みの普遍的なアイテムのようなもので、深い意味を意図的に持たせたかどうかは疑問なのだが、僕がこの映画を見る限りは、かなり重要に思えた。

 尼僧やキリスト像は、もちろん良心や純粋の象徴だろう。前半に登場する尼僧は、精神病らしき子供を養っている。ジェルソミーナはもっと早く良心に出会っていれば、まったく異なる人生、道を歩んだはずだ。
 映画の半ば、ジェルソミーナは街頭のキリスト像のパレードで十字を切るが、映画の観客がキリスト教徒の場合には何の変哲もない場面であっても、宗教に疎い僕にはジェルソミーナの内面を知る大事な仕草だ。

 そして、親切な尼僧に泊めてもらった修道院の納屋。外は雨だ。ジェルソミーナはザンパーノに訊く。
 「ザンパノォ、少しは私を好き?」
 切ない! ジェルソミーナの純粋な想いが一番高まった瞬間だ。だがその想いはすぐに裏切られる。
 なんとザンパーノは修道院で盗みを働こうとしたのだ。ジェルソミーナは共犯になることを激しく拒否するが、それはザンパーノの役に立つという道を選んだ彼女にとって矛盾することであり、自分自信の心を閉ざし始めることでもあったわけだ。

● 象徴 ― サーカス
 サーカスは、ザンパーノにとっては稼ぎの場でしかないが、ジェルソミーナにとっては楽しい場所らしい。広場でのイルマットの綱渡りを見るときのキラキラした目、祭りが終わった後、いつまでも歌い踊り続ける陽気さ、そしてサーカスの公演のときの生き生きした顔。仲間の女性たちにも恵まれ、ザンパーノが事件を起こさなければ、幸せな時間を過ごせたかもしれない。
 サーカスは彼女にとっての天国や楽園ということなのかな。
 だから、イルマットは背中に羽根を付けた天使の格好で綱渡りをするのだろう。彼は宗教とサーカスとをつなぐ者であり、主役たちの人生を大きく転換する役回りなわけだ。

● トランペット
 衣装の帽子とコート、小道具の鎖やトランペットなども実に巧みな使い方だ。
 人間を縛り付けるものの象徴なわけだ。それを引きちぎるザンパーノ。
 そして、トランペット。これは霊的なもの(神や天使、ときに悪魔)の到来を告げる道具だ。ジェルソミーナはイルマットから教わって、いつも同じメロディを吹くようになり、それがラストの洗濯女のハミングになる。それを聴くザンパーノ。

 ザンパーノが寝ているジェルソミーナを置き去りにするとき、毛布を掛け、トランペットとポケットの金を少し枕元に置いていく。いったいどういう心境でトランペットを残していったのだろう。
 いろいろな解釈が可能なようだ。“後ろめたさ”とか“ほんのわずかな優しさ・愛情”ということなのだろう。もっとも人間を道端に捨てる行為そのものに優しさなどないし、金を持たせるならポケットの金ぐらい全部置いてけよと言いたくなる。

● 演技
 ジェルソミーナを演じたジュリエッタ・マシーナ。小柄で髪も短く、華やかな美しさに乏しい。
 しかし、演技はすごい。ザンパーノに対する思いが揺れる芝居も見事なのだが、もっと感心したのは、劇中劇の芝居だ。
 ジェルソミーナは芸人が楽しいし、お祭りや公演のようなにぎやかなことが大好きだ。だけど、歌は唄えず、まともに踊れず、芝居も素人同然。こういう下手糞な芝居を、ジュリエッタ・マシーナは実に巧みに演じる。それがなんともすごいのだ。
 例えば、大道芸で猟師とアヒルの“珍無類の喜劇”を演じるのだが、これがどうにもショボイ代物。ジェルソミーナの芝居も、台詞は棒読み、間も悪く、動きは素人。だけど、見ていて引き付けられる。素人のような芝居の要所要所で、すごく締まった芝居をしているのだ。その演じ方の巧みさは驚きだった。
 さらには、最初に帽子を被らされたときのおどけた表情、結婚式で食事に呼ばれたときのおどけたポーズ(*2)……などなど、こうした瞬間的な表情や動きも、かなり記憶に残る。

 そしてザンパーノ役のアンソニー・クイン。
 僕は、子供のころに観た『ノートルダムのせむし男』の印象が強烈で、彼がこれほど繊細な芝居をするのを見て、意外な感じがしたものだ。
 そして何といってもラストのシーン。すごいよなあ。

● 星と小石。モノと人間
 この映画には明らかに重要と判る台詞がある。イルマットがジェルソミーナに語るものだ。
 「この世にあるものは何かの役に立つんだ。……こんな小石でも何かの役に立っている。……空の星だって同じだ」
 よく、『死んで星になる』という言い方をすることがあるが、この映画ではジェルソミーナは、生きているうちこそザンパーノの星だった。そして小石として彼の心を支えていた。それがジェルソミーナにとって “生きる” ということだった。

 そして、もっとも感動的な“道”の映像。道端に眠るジェルソミーナを置き去りにして、ザンパーノは三輪車を走らせる。
――男は道を遠ざかる。心を照らす星、心を支える小石を残したまま――

 映画の一番最後は夜の浜辺だ。
 ザンパーノは泣きながら夜空を見上げる。しかし、おそらく星を見ることはできなかったのだろう、当惑する表情が印象的だ。そして号泣して浜辺の砂を掴むが、そこに小石はない。
 ザンパーノは、大切な星であり、掛け替えのない小石を捨ててしまった自分の愚かさに気づく。ジェルソミーナを物のように扱っていたけれど、命を持った人間だったことに気づく。そして激しく後悔する。
 後悔するのは、彼が人間性をほんの少し取り戻した証だ。

 画面に『Fine』と言う文字を見たとき、僕はいつも考えてしまう。
  人間って何だろう?
  生きるって何だろう?

 必見!


(*1) もしかしたら二人分の夕食代込みかもしれない。いずれにしろ、わずかな金額でしかない。
(*2) フェリーニの次の作品『カビリアの夜』で、ジュリエッタ・マシーナが踊るマンボに似てる。

画像
芸人は楽しそう

画像
夜空に星は見えない

画像
浜辺に小石はない

Federico Fellini(フェリーニ)の映画の感想
 ⇒ 寄席の脚光
 ⇒ 白い酋長
 ⇒ 青春群像 (ちょっと待ってね)
 ⇒ 道 (今回の書き込みです)
 ⇒ 崖 (ちょっと待ってね)
 ⇒ カビリアの夜
 ⇒ 甘い生活
 ⇒ 8 1/2
 ⇒ 魂のジュリエッタ
 ⇒ サテリコン
 ⇒ フェリーニの道化師
 ⇒ フェリーニのローマ
 ⇒ アマルコルド
 ⇒ カサノバ
 ⇒ オーケストラ・リハーサル
 ⇒ 女の都
 ⇒ そして船は行く
 ⇒ ジンジャーとフレッド
 ⇒ インテルビスタ
 ⇒ ボイス・オブ・ムーン

 ⇒ このブログのトップへ
 ⇒ 映画の感想のインデックス(作品名順)
 ⇒ 映画の感想のインデックス(監督名順)
 ⇒ 映画の感想のインデックス(テーマ別(?))

 ⇒ 映画(全般)ブログランキングへ
 ⇒ にほんブログ村 映画ブログへ

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

映画の感想文 [406] 道 ハムイチの棲み家/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる