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zoom RSS 映画の感想文 [462] 甘い生活

<<   作成日時 : 2012/02/26 18:12   >>

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【甘い生活】
原題:: La dolce vita
製作国:伊国、仏国
製作年:1960年
日本公開:1960年9月
監督:Federico Fellini(フェデリコ・フェリーニ)
出演:Marcello Mastroianni(マルチェロ・マストロヤンニ)

=== あらすじ(途中まで) ===
 ローマでゴシップ専門の記者をしているマルチェロは、恋人のエンマと同棲するかたわら、取材で知り合う女性たちと次々と遊び回っていた。
 ナイトクラブで大富豪のマダレーナと知り合って一夜を明かし、米国の人気女優シルヴィアが婚約者と喧嘩したのに乗じて2人で深夜の市街を歩き、上京した父と同行したキャバレーには、かつて写真を撮ってあげると言って誘惑したファニーがいた。侯爵の城のパーティーではマダレーナと再開するが、彼女は別の男とどこかへ消えてしまい、マルチェロは暗闇で侯爵の娘に誘惑される。
 マルチェロの心が休まるのは、友人のスタイナーの家へ招かれたときだった。そこで昔のようにもう一度、作家を目指してみないかと励まされる。しかし実際に書こうと思ってもうまくいかず、執筆場所を借りた海辺の店で働く少女の清純さに、心が洗われる思いがするだけだった。

=== 感想 ===

● パパラッツォ
 マルチェロの相棒のカメラマンは“パパラッツォ”と呼ばれている。パパラッチの由来だそうだ。
 つまり、パパラッチ(paparazzi)はパパラッツォ(paparazzo)の複数形で、元々はイタリアの方言で「藪蚊」を意味し、この映画から有名人をつけ回してゴシップ写真などを撮ろうとするカメラマンのことになったらしい。日本でこの言葉が頻繁に使われるようになったのは、1997年のダイアナ元妃の事故死からだと思う。
 マルチェロもパパラッチの片割れだ。
 パパラッチ――いかにも退廃的な職業という印象を受ける。しかし……。

● 退廃
 この映画は「退廃」を描いているというレビューをいくつも読んだが、実際に観てみるとあまり「退廃」を感じることはない。どうも、その手のレビューは無視したほうが良さそうだ。
 50年前ならともかく、現代においてこの映画の主人公マルチェロやその友人たちの遊び程度に「退廃」を感じる者などいないだろう。毎晩、女を変えて遊び歩く男。安アパートで発情する金持ち女。オヤジの歳のくせにキャバレー好きな男。どんちゃん騒ぎで酔っ払ってストリップを始める女。
 別に珍しくないじゃん!

 では、この映画はカビの生えた「退廃」の概念を描写しているだけで、もはや映画史以上の価値はない作品なのか?
 そんなことはない!
 いくつか難はあるものの、現在でも十分に楽しめる映画だと思う。いまどき、この映画で退廃がどうたらばっかり言う奴は、感性が退化しているのかもしれない。

● 象徴などを描いてみたが
 テーマやメッセージなどを語りたいらしく、シンボル(象徴)やメタファー(隠喩)などの理屈っぽい要素が多い。特に最初と最後はすごく目立つ。

 例えば映画の冒頭は、ヘリコプターに吊り下げられて法王庁へ運ばれるキリスト像で、これがいろいろな喩えになっていそうだ。例えば……。
 バチカンも派手なパフォーマンスをするようになった――教会も堕落したものだということだろう。
 そしてマンションの白い外壁にキリスト像の影が映り、天へ昇っていく。ここは見事な映像だと感心してしまうが、堕落しても神は社会に影を落とし、影響を与えているということか。
 しかし、これを見上げる市民で十字を切る者は少ない。すっかり信仰も弱まってしまった。
 さらにマルチェロとパパラッツォの乗ったヘリコプターがキリスト像を追いかけている。マスコミにとって、キリストなど藪蚊が追いかける程度のネタでしかないということか。
 ようやくバチカン広場に到着したかと思うと場面は変わり、奇声を上げた東洋の神らしき仮面舞踏が始まる。ミサより異教の神の踊りのほうが面白いらしい。

 映画の最後には、不気味な魚と少女が登場する。
 浜辺に釣り上げられたグロテスクな魚はマルチェロの姿そのものらしい。
 その魚の真っ黒な目がじっと自分たちを見つめている。まるで醜い物を見ているかのように。
 そこで清純な少女と再開するが、彼女との間には溝があり、マルチェロは退廃側から清純側へ渡ることはできない。
 しかもその清純な少女の声は聞こえない。マルチェロは当分、救われそうもない。

 こういった具合だ。巧みだなとは思うものの、こういうのを謎解きしていくのって、子供騙しなナゾナゾをやっているような気分にさせられる。ペダンチックなカッコつけが好きな中二病患者には、よだれを流すほどの格好の餌かもしれないが、僕はあまり面白いとは思わない。

● 精神分析
 フェリーニの映画は精神分析のように解釈するのが“ツウ”らしい。
 この感想もそうしたスタンスで書かないと「こいつ、脳味噌の皺が無いじゃん」と笑われそうだが、僕にはどうしてもそういうふうにこの監督を捉えることができないのだ。
 初期の『道』は、きちんとストーリー性のある話で、メッセージ性も強かった。しかし、この映画のあたりからは、ストーリーもメッセージもどうでもよくなる――は言い過ぎか――かなり重要度が低くなるような気がする。
 まず映像ありき。彼の頭の中では次々と天才的なイマジネーションが湧き続けているのだろう。それを映像として具現化する。そして映画としてまとまりを持たせるときに、メッセージらしきもので糊付けする。どうもそんな印象を受けるのだ。
 したがって、この映画も映像や個々のシーンの面白さを楽しむもので、退廃といったようなメッセージなど二の次だろう。

 なんちゃって、僕はフェリーニの映画はごく一部しか観ていないので、こうした感想はやはり「脳味噌の皺が無い」証しに違いない。きっと精神分析のように解釈するべきなのだ。彼の映画を全て観れば、きっとそういうスタンスになるはずだ……てか?

● 泉
 この映画に登場するキャラクター、特にどの女性に着目するかで、各自の好みが分かれそうだ。
 僕は、平凡にシルヴィアとそのエピソードが一番のお気に入り。豊満なスタイルで奔放な行動をするのに、整った美しい顔と一つ一つの所作がものすごく上品な感じで、人間離れした魅力を振りまいている。
 街中の泉で水に打たれる表情はちょっと神秘的な美しさだ。マルチェロも手を触れることができないまま、あっという間に夜が明けてしまう。このときのタイムワープしたかのようなシュールな映像表現は、幻想の世界から現実の世界へのジャンプを体感させるもので、シルヴィアがあたかも時間を操る女神のような存在ということなのかもしれない。
 なお、演じているのはアニタ・エクバーグ(Anita Ekberg)という女優だそうだ。(*1)

● 踊り・演芸
 キリスト教的な要素と豊満な女性だけでなく、音楽や踊り、演芸そして群衆という、この監督の定番要素もふんだんに出てくる。
 まずは、ナイトクラブの東洋的な仮面舞踏が面白い。これの究極が『サテリコン』の般若心経かな――なんてことを考えながら眺めていた。そしてシルヴィアのダンスやファニーたちの猥雑なショーダンス。
 キャバレーでトランペットを吹く芸人も不思議なシーンだ。床を埋めるほどたくさんの大きな風船が転がっている中で演奏するのだが、芸人が退場するとき、風船が後を付いていく。まるで彼を慕う子供のようだ。さりげなく幻想的な映像になっているのが、なんともオシャレ。

● 群衆
 群衆シーンで印象的なのは、二つある。
 一つは、子供が見たという聖母の奇跡に集まる信者のシーン。子供の言葉に振り回される人々が右往左往する様子を、巧みにカメラを振りながら捉えている。そして急に降り出した雨の中に放置される寝たきりの病人たち。そりゃ、死人も出るわな。
 このシーンはフェリーニの宗教観の表れで、キリスト教はローマの日常として肯定するけれど、インチキくさい信心は徹底的に醜く描き、笑い物にするというエピソードだ。

 もう一つは、街の中心部の路上カフェの様子。道路は渋滞した車で埋まり、車道ぎりぎりまでテーブルが置かれて人であふれている。
 この監督の映画などですごくお馴染みで、何となくホッとする絵。

● 少女
 映画の最後は少女が主役に語りかける。これは前作『カビリアの夜』(1957年)と同じ。何かこだわりがあるのかな?

 この映画、最後に“清純な少女”を見て、何となくホッとするような人向け。
 ストーリーが分かりにくいと、何となくモヤモヤするような人には不向き。


画像
噴水を浴びる、女神のようなアニタ・エクバーグ

(*1) 今回は女神のようだけど、2年後の『ボッカチオ '70』の中の『アントニオ博士の誘惑』では悪魔の化身のような女性を演じている。
画像
参考:悪魔の化身のようなアニタ・エクバーグ
『ボッカチオ '70』の『アントニオ博士の誘惑』から

Federico Fellini(フェリーニ)の映画の感想
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