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zoom RSS 映画の感想文 [665] サテリコン

<<   作成日時 : 2013/11/18 23:05   >>

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【サテリコン】
原題:Satyricon
製作国:イタリア、フランス
製作国:1969年
日本公開:1970年9月
監督:Federico Fellini(フェデリコ・フェリーニ)
出演:Martin Potter(マーティン・ポッター)

=== あらすじ ===
 ローマ帝国の時代。学生のエンコルピオは、学友で恋敵でもあるアシルトや、彼ら二人の恋人で美少年のジトーネと一緒に様々な体験をした。
 大衆風呂での喧嘩、ヴェルナッキオの芝居小屋、地震で崩壊する売春窟、豪商トリマルキオの宴会、老詩人エウモルポの災難、貴族リーカの奴隷狩りと航海、リーカとの格闘と結婚、クーデターによる皇帝の弑逆、ジトーネの拉致、没落貴族の自殺、残された女奴隷との享楽、両性具有の生神の略奪、ミノタウロスとの戦いと友情、アドリアネとのセックス不能、魔女エノテアによるインポ矯正、アシルトの殺害、エウモルポの食屍などなどだ。
 エンコルピオはアフリカ行きの船に乗り、船乗りになった。

=== 感想 ===

● 余計な情報
 冒頭のタイトルでペトロニウス(Petronius)の古典の翻案(adaptation)と表示される。ペトロニウスは20年頃〜66年の作家とのこと。
 ローマ三部作の一つと云われるそうだが、別にローマだけが舞台なわけではないので、かなりいい加減なレッテルだ。そんな頭デッカチな先入観に縛られてこの映画を観るほど愚かなことはないだろう。
 原作のこともレッテルのことも、鑑賞するうえでさほど重要な情報ではない。そんなもの無視して映画を楽しむのが賢いと思う。

● 堕落と退廃
 学生のエンコルピオが、堕落と退廃の奇妙な体験を次々と重ねる。

 まずは、堕落と退廃がテーマであることは明らかだ。しかし、メッセージとしてはかなり弱いので、この監督がどこまで真面目にそれを描こうとしたかは疑問だ。
 というのは、この映画で描かれる堕落と退廃は、ほとんどが食と性と死に関わるものだからだ。“死”はちょっと異質だけど、食と性は私生活であって、それを通じて堕落と退廃を表現されても現代社会の風刺にならない。
 現代では、快楽をむさぼる方法がどのようなものであろうと、非合法あるいは非人道的なものでもない限り、「勝手にすれば」という感覚だ。堕落と退廃を描くなら、私生活よりはむしろ政治・経済・社会などを題材としないと意味が薄い。しかし、この映画はそうした要素はまったく触れていない。

● 冒険譚
 主役のエンコルピオに着目すると、若者の成長を描いているかのように見えるが、話の最初と最後とを比較したとき、エンコルピオは何がどう成長したのか明確ではない。彼の最後の決断は故郷を捨てて新天地へ向かうというもので、そうした思いを抱かせたものを成長とみなすことができなくはないけど、かなり大げさな捉え方になってしまう。
 したがって、若者が成人になるための通過儀礼の“めたふぁ〜”を描いた映画といったような、安っこい民俗学的な理屈もピントがずれてることになる。

 素朴に、オムニバス的な冒険譚や体験談とみれば十分だろう。

● 般若心経
 この映画では“死”がいくつも登場する。
 地震で死ぬ売春窟の住民たち、トリマルキオの葬式ごっこ、皇帝の弑逆、リーカの処刑、没落貴族の自殺、両性具有の生神の死、アシルトの殺害、そしてエウモルポの死と食屍などなどだ。
 特に注目は、トリマルキオの葬式ごっこだろう。彼はパーティーに多くの客を招き、食べ切れないほどの食事や芸人の余興でもてなした後、全員を自分の墓へ案内して、葬式のシミュレーションを行う。一種の生前葬かもしれない。
 まだキリスト教が普及する前の時代らしく、葬式にローマ・カトリック的な要素はまったくない。その代わりに「マーカーハンニャー、ハーラーミッター……」という般若心経が唱えられる。だからといって仏教の葬式なわけでもなく、般若心経はあくまでも、この場面にフィットした音楽というだけのことに過ぎないのだろう。
 監督はキリスト教を否定したいのだ――なんて訳ないじゃん!

 この映画の一つ一つのシーンに、小賢しく読み取るような深い意味はないということの証拠だろう。特に日本人の場合、葬式ごっこのシーンで瞬時に般若心経と気が付くはずで、それでいながらこの映画の細部に哲学的な深い意味を見出そうと屁理屈こねるのは、ほぼ馬鹿に近い。
 堕落と退廃のオムニバスの積み重ねの一つという見方でいいんじゃないかな。

● 映像
 映像は、いかにもこの監督らしい幻想的で感傷的なもの。多くはセットで撮ったという作り物感が強いのだが、それが逆に“堕落と退廃のローマ時代”という背景を浮き立たせているように感じられる。
 豊満で肉感的な女性や、ひげの濃そうな男色が何人も登場する。これも、この監督らしいキャラクターだ。
 僕の一番のお気に入りは、自殺する没落貴族の屋敷に一人だけ残っていた奴隷女。褐色の肌とスレンダーな締まった体、そしてエンコルピオたちを誘惑するようにからかう様子が、すごく可愛い。
 次いで、エンコルピオがアドリアネとのセックスに失敗したときに、地面にうずくまって身体を左右に振りながら「情けない、情けない」と言う黒ずくめの老女も、妙に印象に残っている(*1)。

● お奨め
 まあ、人によって好き嫌いが激しい映画だろう。
 でも、一度は観ても損はないよ。


(*1) この映画も若いころに何とテレビで観ているのだが、この老婆の様子と、最後にエウモルポの肉をくちゃくちゃと醸す老人の様子だけが、鮮明に記憶に残った。

画像
エンコルピオとジトーネ

画像
般若心経

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