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zoom RSS 映画の感想文 [679] フェリーニの道化師

<<   作成日時 : 2014/01/26 11:00   >>

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【フェリーニの道化師】
原題:I Clowns
製作国:イタリア
製作年:1970年
日本公開:1976年12月(制作年:1970年)
監督:Federico Fellini(フェデリコ・フェリーニ)
出演:Federico Fellini(フェデリコ・フェリーニ)

===== あらすじ =====
 フェリーニが子供の頃、家の隣の空き地にサーカスがやって来た。期待して興行を観に行くが、道化師たちが町の妙な人たちと同じに見え、怖くなって泣き出してしまった。
 時がたち、監督となったフェリーニは、もはや見ることのない道化師たちの動向を求め、ローマやパリの取材を行うことにした。

===== 感想 =====

● 圧巻
 日本ではあまり評判が高くないみたいだけど、僕にとってはフェリーニの中でほぼベストの映画。『道』とはまったく異なるトーンだけど感動はそれに匹敵し、『8 1/2』や『サテリコン』や『ローマ』より好きかもしれない。

 映画の内容は大きく三つに別れる。
 最初はフェリーニの子供時代。家の隣に来たサーカスの道化師が怖くて泣き出してしまう。全体的にどこか頽廃的でグロテスクな雰囲気。フェリーニらしい映像だけど、観ていてやや引き気味。
 中盤は現代のフェリーニ自身が画面に登場し、かつて活躍していた道化師の現状を訪ねて歩く。ドキュメンタリー風だけど、妙に色っぽいアシスタントや録音係の母親(フェリーニ定番の豊満熟女)などがいつも同行し、かなり演出の要素も感じることができて、無作為と作為のバランス感覚が絶品のフェリーニ節。
 終盤は、61分ころの「道化師は死んだのだ」というナレーションから。サーカスの丸いリングや客席を舞台に、一人の道化師の葬式の様子を大勢の仲間が演じるというもの。道化師の名人芸のような小技を淡々と撮ることから始まって、次第に大掛かりなドタバタになり、死んだ道化師が空中を泳ぐうちに、ふっと幻想的なエンディングを迎える。
 その盛り上がりたるや、もう圧巻!
 最後は死んだ道化師の魂を呼び戻そうとするトランペットが(*1)、結局は鎮魂の音色となって締めくくられる。
 もう感動!

● 映像
 映像がすごい。序盤は子供時代のざらついて赤と黒の陰影の深い絵。中盤はドキュメンタリー風の鮮明で説明的な絵。終盤は道化師の葬式で、やはり赤が目立つけど、マンガ的なトーンがすっと幻想的な絵に切り替わる。こうしたメリハリが見事。
 子供時代や道化師の葬式のシーンがいかにもフェリーニ風なのは当然として、僕が意外だったのは、中盤のドキュメンタリー風の場面の撮り方もうまいこと。取材シーンはさほどの特徴はないけれど、道化師たちの芸を映すときは、カメラの切替やアングルなどが実に巧み。ちょうどこちらが観たいなと思うところを映してくれて、まるでかゆいところに手が届くといった気の利きよう。
 そして音楽。全体に流れるジンタ(サーカスなどで演奏される吹奏楽)のような音が哀愁を誘うし、終盤のトランペットの鎮魂の音色がものすごく心に染みる。

● もの悲しい
 一番すごいのは、こうした映像上の技の使い方だろう。技を使ってものすごい感動を呼び起こす。その巧さとセンスそのものが天才たるところだと思う。
 ドラマ的な台詞はものすごく少ない。道化師たちの往年の芸を記録した映像、ドキュメンタリー風の取材風景、ナレーションなどを重ね合わせながら、もはや絶滅寸前のような道化師の儚(はかな)さが描かれていく。終盤の道化師の葬式は、まさに道化師はもはや死に絶える定めだと言っているかのよう。
 こうした場面をつづって、一つの芸の衰退と終焉、あるいは芸人の凋落と引退を描く。単なる古き良きエンターテイメントのノスタルジーだけではなく、大げさな言い方をすれば文化の変遷の一断面を描いている。その眼差しは、人間性に満ちた、ものすごく温かい心を感じさせるものだ。

 道化師は元々「悲しみ」を背負っているものだ。人から馬鹿にされ、笑われる存在であるけれど、自分自身の顔こそ笑ってはいるものの、心の中には笑われることへの悲しみを秘めている。
 これって、多くの人間が抱える「弱さ」そのもののカリカチュア(caricature; 誇張、風刺)なんだよね。ちなみに「ピエロ」と呼ばれる道化師は、目の下に涙を描くのがお約束なのだそうな。
 こうした悲しい道化師の、その又さらに悲しくなるような終焉のお話。
 物悲しい感動を呼び起こすのは当然なわけだ。

 なお、有名な俳優としては、アニタ・エクバーグがほんの少しだけ登場する。ちょっと旬が過ぎてる感じだけど、そこがまたこの映画のメッセージに合ってることになる。

● 必見
 この映画、日本ではほぼ無視されているみたい。
 観る人によって途中までは好き好きかもしれないけど、終盤、約30分間の道化師の葬儀は圧巻の感動もの。すごいよ。
 ここだけでも必見!

 なお、74分ころ、道化師たちの芸のはずみでフェリーニ自身がバケツを被るコントをやる。ここも貴重な映像だよ。


〔蛇足その1〕ダチョウ倶楽部かよ?

 いくつかの道化師たちの中で、僕が一番笑ってしまったのは、病院を慰問する三人組の道化師。
 ダチョウ倶楽部に似ているなと思って観ていると、左端の上島風と中央のデブな肥後風が口論を始め、次第に顔が近づいてキス――ダチョウ倶楽部じゃん!――とビックリ。
 その直後に、ダチョウならぬガチョウが登場し、僕はたまらずコーヒーを吹いてしまった。
 さらにこの三人組は軍の病院で天使らしきネタをやるのだが、紐で空中に吊り上げられた様子がウルトラ・クイズの罰ゲームみたい――僕は再びコーヒーをブー。

〔蛇足その2〕
 終盤の道化師の葬式シーンを観て、『8 1/2』のエンディングの輪になって踊るシーンとか、『サテリコン』の般若心経の葬式を持ち出す奴がいる。それも精神分析ごっこみたいな蘊蓄を垂れながら。
 はあ〜、何だかな……。
 この映画ほどの映像を見ながらその手の指摘をするのって、すご〜く無粋に感じるよね。

(*1) トランペットは、聖書では霊的なもの(神や天使、ときに悪魔)の到来を告げる道具。
 トランペットのこの意味を重視するのは、『道』と同じ。
 なお、映像的には『甘い生活』のキャバレーの芸人と風船のシーンを思い出す。

画像
ダチョウ倶楽部がウルトラ・クイズで罰ゲームを受けてる……のではないよ
上段の右から二人目はフェリーニ

Federico Fellini(フェリーニ)の映画の感想
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