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zoom RSS 映画の感想文 [885] そして船は行く

<<   作成日時 : 2015/11/03 11:02   >>

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【そして船は行く】

原題:E la Nave Va
製作国:イタリア、フランス
製作年:1983年
日本公開:1985年11月
監督:Federico Fellini(フェデリコ・フェリーニ)
出演:Freddie Jones(フレディ・ジョーンズ)

===== あらすじ(途中まで) =====
 1914年7月。豪華客船『グロリアN号』が多くの著名人を乗せて出港した。航海の目的は世界的に有名なオペラ歌手エドゥメアの遺灰を、生まれ故郷であるエリモ島の沖で散骨することだ。客はオペラ歌手や音楽の仲間、劇場関係者、政府要人らで、エドゥメアのファンであるオーストリア・ハンガリー帝国のヘルツォーク大公と姉のレニリア皇女らも同行していた。彼らの様子は記者オルランドとそのカメラマンによって克明に記録されることになった。
 乗客たちは、美しい日没に見入ったり、サロンでエドゥメアの思い出を語り合ったり、見学に行ったボイラー室でオペラの一節を歌ったりして時間を過ごし、時にはニワトリに催眠術を掛けたり降霊術を試すなどの暇つぶしをしながら航海は進んでいった。
 数日後、大勢のセルビア人難民が乗ったイカダに遭遇した。漂流している彼らを助けたことから、船上の様子が変わっていく。

===== 感想 =====

● POV
 映画は白黒の無声で始まる。聞こえる音は映写機のリールが回るらしきカラカラという音だけ。記者オルランドとそのカメラマンが撮影した1914年当時のニュース映像を見ているという設定だ。
 ところが映像は明らかにセットと判る埠頭と客船。ドキュメンタリのようなリアルな臨場感などなく、むしろ舞台劇、いやオペラを見ているような雰囲気だ。
 始まって3分ほどして霧笛が響き、船に荷物を積み込むクレーンのきしむ音が聞こえ始める。でも人の話し声は聞こえない。その代わりにオルランドの台詞である「これから起こることを報道せよといわれたが、何が起こるやら」という字幕。4分30秒ほどでピアノの曲が聞こえ始め、6分ほどでようやく「エデゥメアの遺骨をお渡ししたい」という音声が入る。ここからは音声は通常のものになる。
 そして7分ころ、エデゥメアの遺骨が船に運び込まれたところから、映像がカラーになる。
 こうした導入部はかなり技巧的。
 この後も早回しやスローモーションなどが一部使われるが、基本的には通常のカメラワークとなる。
 ところが登場人物たちがときどきカメラを意識した動きを見せる。記者オルランドの相棒が撮影するカメラに向かっているという設定だけど、まるでPOVみたい。

 まさに変幻自在な映像作り。ただしこれらは序盤のムード作りを主目的としたもので、話が回りだすとこうした目立つ技は影を潜めることになる。

● 乗客
 凝った映像に代わって、今度はオルランドによる主要な乗客たちの紹介が一気に行われる(*2)。
 ここは映像のテクよりも、個々の乗客を演じる役者たちの表情や仕草による瞬間的なキャラ表現が見せ場となる。誰もかれも、高慢、卑屈、陽気、陰気などなどの性格が瞬時に見えるのだから、演じる役者たちの芝居はさすがなものだ。

 映画の前半は、彼らがいかに退屈な船上生活を過ごすかが、些細なエピソードをつなぐことで語られていくことになる。

 映画の半ば、船に大勢のセルビア人難民が乗ってくる。実は1914年7月というのはあのサラエボ事件(*1)の直後ということで、セルビアはオーストラリアから宣戦布告を受けることになる。船の乗客の多くは最初は難民を疎ましく思うのだが、オーストリア=ハンガリー帝国の軍艦に遭遇し、難民の引き渡しを要求されたときには、それを皆で拒否する。
 フェリーニには珍しく、露骨に政治的なメッセージを現した場面だ。ただしそれは悲惨な結果をもたらすことになるのだが、フェリーニはわざわざオルランドと犀(サイ)を使ったコント仕立ての結末にしてしまう。政治的なことを描くなんて――と自ら恥ずかしがってるかのような、かなりの照れ隠しだな。

● 船
 船は行く――オペラ歌手の遺灰を散骨する海へ向かって――ということで、オペラ的な要素と葬儀の要素が色濃く表れることになる。
 映画の冒頭、主要な乗客が船に乗り込むシーンは完全にオペラの葬送行進だし、エドゥメアの遺灰を散骨するところもオペラのように役者の動きが少なめの心情表現たっぷりの葬式シーンとなっている。さらには船が沈む時に指揮者が音楽を演奏させるところは、ちょこっと『タイタニック』に似てるけど、むしろオペラにありがちな主役たちの滅びの場面のよう。

 ついでに。
 豪華客船といえばタイタニック号よりはむしろレックス号を挙げるべきだろう。『アマルコルド』に登場する船だ。
 その映画では、フェリーニの分身ともいうべき少年ティッタは、夜中に小さなボートから巨大な客船レックス号を見上げたのだが、その船の客たちの様子は描かれていない。僕の勝手な妄想を書けば、ティッタ少年=フェリーニ少年は、その時のレックス号には大勢のオペラ関係者が乗っていて、仲間の葬式に行くところと想像したのかもね。

● あれこれ
 役者はよく知らない人ばかり。プロフィールなどを見ると何かの作品で見たことのある人もいるらしいんだけど、およそ印象にない。
 しいていえば、レニリア皇女役のピナ・バウシュくらいかな。ただし、彼女はまったく踊らないし、青ざめた不健康そうな表情ばかり。

 映像は手慣れた技を感じる。でも映画としての盛り上げについては完全にパワー不足だな。
 監督が若いころならもっともっと感動的に仕上がったと思うよ。


画像

(*1) サラエボ事件
 1914年6月28日にサラエボでオーストリア=ハンガリー帝国の皇太子夫妻がセルビア人の青年によって暗殺された事件。
 この事件がきっかけとなって、第一次世界大戦が勃発した。

(*2) 主な乗客は次のとおり。
  ミラノのスカラ座の支配人
  ローマのスカラ座の支配人と霊媒能力を持った秘書
  少年指揮者ファン・ルペルト
  テノールのフルプット
  ウィーン歌劇場の支配人
  女性コラムニストのヒルトン
  バス歌手ジロエフ
  メゾソプラノのヴァレニァーニとイネス
  音楽教師ルベッティ兄弟
  ソプラノ歌手クッファリ
  指揮者ファツマイヤー
  舞踏家スベトゥーナ
  オーストリア・ハンガリー帝国ヘルツォーク大公
  その姉のレニリア皇女

 さらに次のような乗客や乗員が登場する。
  美少女ドロテア
  大公国の総理大臣、警視総監、将軍
  レオナルディス船長
  レジナルド卿とその妻バイオレット
  バッサーノ伯爵

Federico Fellini(フェリーニ)の映画の感想
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