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zoom RSS 映画の感想文 [1165] ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男

<<   作成日時 : 2018/05/13 12:30   >>

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【ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男】
原題:Darkest Hour
製作国:英国
製作年:2017年
日本公開:2018年3月
監督:Joe Wright(ジョー・ライト)
出演:ゲイリー・オールドマン(Gary Oldman), Kristin Scott Thomas(クリスティン・スコット・トーマス), Lily James(リリー・ジェームズ), ベン・メンデルソーン(Ben Mendelsohn)

===== あらすじ(途中まで) =====
 1940年5月、ナチス・ドイツがベルギーに侵攻し、宥和路線だった英国のチェンバレン内閣は総辞職に追い込まれた。野党の労働党も一体となった挙国一致内閣を作るため、新たな首相には海軍出身のチャーチルが選ばれた。
 チャーチルは、ドイツと軍事的に対抗する準備を進めるが、それに反対するチェンバレンとハリファックスら保守党の有力議員は、ドイツとの話し合いの道を模索し続けていた。やがてフランスもドイツに負け続け、米国の参戦は得られず、さらに連合軍主力がダンケルクに追い詰められる事態となり、チャーチルはダンケルクからの撤退作戦を進める一方で、チェンバレンらに譲歩してドイツとの講和をせざるを得ない状況に追い込まれてしまった。
 悩めるチャーチルのもとに極秘で一人の訪問者がやってきた。国王ジョージ六世だ。
 国王はそれまでチャーチルを嫌っていたが、ナチスと戦争することが不可避と悟り、チャーチルを支持すると伝えに来たのだ。そして議会を説得するために、国民の声を直接聞いてみろと助言を与えた。

===== 感想 =====

● 決して引き下がらない
 国民の声をじかに聞こうと、チャーチルは生まれて初めて地下鉄に乗った。そして周りの乗客たちに、戦争を回避するためにドイツに譲歩してよいかと聞いた。
 全員が答えた「Never!」
 決してそんなことはしないと。

 チャーチルはもう一度念を押した。
 ドイツの軍事力は強大で、英国は滅びるかもしれないが、ドイツに譲歩しないのか?
 全員が答えた「Never!」
 決してそんなことはしないと。

 話し合いより戦争。
 それが国民の声だった。

 というわけで、この映画はいまどきの日本人には無理。
 北朝鮮や中国の軍事圧力に目をつむり、日本国憲法の「平和を愛する国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」という理想が危うくなっているのに、いや、そういう文章があることすら知らずに日本国憲法の文言を一言一句守れとトンチンカンなことを言う――そんな態度は反戦について不真面目だと気づかないような、いまどきの多くの日本人には無理な映画なのだ。

 というわけで、この映画は日本のマスコミからは無視されることとなった。
 日本人の辻一弘が、アカデミー賞のメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞するのだが、それをさらっと報道しても、映画の内容をきちんと紹介することはなかった。

● 一番暗い時間
 原題は『Darkest Hour』――難しい英語だ。

 まず、辞書的な意味がわからない。(*1)
 間違ってる可能性が低くはないけど、どうも「一番暗い時間」という意味で良さそうだ。さらに“The darkest hour is just before the dawn.”(夜明け前が一番暗い)という英国の慣用表現があって、「夜明け前」という意味も含んでいそう。暗い夜が明ければ明るい未来がやってくるということだな。

 とりあえず言葉の辞書的な意味「一番暗い時間」、そして表面的な比喩「夜明け前」と分かっても、もっと本質的な含意となると、やはり難しい。
 この映画は、英国がドイツに宣戦を布告し、第2次世界大戦が本格化する時間帯を描いている。そういう時間経過だけに着目して「夜明け前」と解釈すると、開戦が夜明けで、戦争が明るい未来ということになってしまう。
 これは常識的に信じがたいタイトルだ。

 もっと心に着目したほうがよさそうな気がする。
 つまり、「一番暗い時間」や「夜明け前」とはチャーチルが迷いを抱いた時間であり、「夜明け」とはチャーチルが迷いを振り切った瞬間のこと。
 それは、英国、いや自由世界全体が迷いを振り切った瞬間ということだろう。

 で、迷いを振り切って何をするかといえば、戦争。
 戦争は自由世界のために不可避だったというのが、当時の自由世界全体の考えであり、チャーチルはそれを明確に示すことに貢献したというのが、この映画の主張なのだ。

● チャーチルの武器
 チャーチルは、これまでずっと抗戦の方針を抱き続け、ダンケルクの連合軍を助けるために、カレーで囮となった数千人の部隊が全滅することにも耐えた。精神的にタフな軍人であり、冷徹な政治家なのだ。しかし、議会や保守党の有力者を説得する言葉が見つからなかった。次第に老獪な議員たちに押され、ついには講和を受け入れざるをえない事態にまで、政治的に追い詰められてしまう。
 窮地に立ったチャーチルを救ったのは、国王の助言だった。チャーチルは、自分の方針が正しいものと再確認し、さらに議会を説得する方法を教えられる。
 その方法とは下から支持を積み上げていくというもの。

 ここは勘違いしやすいポイントかもしれない。
 チャーチルは、地下鉄の中のごく一部の人間の声を聞いて、それが国民全体を代表する意見と知ったのではない。つまり、街頭アンケートのようなことをしたかったのではない。
 国民は屈服より戦争を望んでるというのは、もともとチャーチルは想定していたことであり、政治家との議論においてその考えを補強するためのエビデンスを作りにいったのだ。
 あくまでも、弁論術の裏付け作り。
 ここを勘違いして、「ごくわずかな人間の言葉で国民全体を推し量ろうとするなど、この映画のチャーチルは馬鹿じゃないの?」と思うなら、そう思うほうが馬鹿なのだ。

 もう少し詳しく書くと、こういうことだ。

 地下鉄の中で庶民の抗戦の言葉を拾い、閣外大臣を集めたスピーチで政権の実務者たちの支持を得ると、いよいよ下院で保守党の有力者を封じ込めるための演説に臨む。
 地下鉄で一番重要だったのは、乗客の名前を聞いたこと。チャーチルは国民が抗戦を望んでいると主張する時に、その証拠として今自分が聞いたばかりの国民一人一人の名前を挙げていく。それはほんの一例で、まだまだ多くの名前を挙げることができるぞ、という迫力を持たせながら。
 地下鉄に乗ったのは、具体的事実として国民の名前を列挙することで、自分の言葉の威力を何倍にもしてしまうという弁論術の準備だったのだ。

 チャーチルは言葉を武器に戦場に乗り込み、自由世界の迷いを払しょくすることに成功するのだ。

● チャーチルと彼を助けるものたち
 チャーチルは頑固。慇懃無礼で皮肉屋のため、部下からは敬遠されるし、政治家仲間や国王からも好印象を持たれてはいない。
 しかし修羅場のリーダーとして、誰からも絶対的な信頼を得る人材だった。
 ゲイリー・オールドマンが熱演。特殊メイクも見事。
 ただし、目が若かったな。ゲイリー・オールドマンはきれいな水色の瞳をしていて、今回はそれが弱点になったみたい。

 チャーチルの妻クレメンティーンは、気難しい女性に見えて、実は頑固者の夫にうまく合わせている。
 象徴的なのが、最後の登場シーン。鏡を覗いて宝石を外し、戦時の服装に着替えて写真撮影。国民に戦争を訴えるプロパガンダのためだ。ちょっと愚痴を言いながら、でも夫を支え続ける妻なのだ。
 演じるクリスティン・スコット・トーマスは、高貴な役が似合うな。

 チャーチルには専属のタイピストがついていた。チャーチルの気難しさに耐えられず、これまで長続きする者はいなかったのだが、エリザベス・ネルという若い女性がチャーチルのお気に入りとなる。映画の中の彼女の役回りは、チャーチルの仕事ぶりを個人的な側面から描くもの。とりわけ、一種独特のおちゃめな側面と、能力を一番重視するエリート主義的な側面が見えるようだ。
 リリー・ジェームズが、『高慢と偏見とゾンビ』の女剣士とはずいぶん違った雰囲気を出していた。

 ジョージ6世はチャーチルが嫌いみたい。体質的に合わないタイプといった感じ。でも、「お国のために」、自分の感情など関係なく、チャーチルを支える側へと方針転換する。
 きちんと現実が見えていて、賢い。
 そもそも器が大きいのだ。
 『レディ・プレイヤー1』のメカゴジラ&悪徳社長など、最近よく見るベン・メンデルソーンが演じてる。ちょっとスマートすぎたかな。

● お薦め
 話の内容が不都合らしく、フェアな報道をしようとしない、器の小さい日本のマスコミからは無視されている作品。でも、映画として、かなり上質。
 見るべし。


(*1) darkest hour
 単語の「dark」も「hour」も中学で習ったが、「Darkest Hour」という表現など習ったことがない。「darkest」は「dark」の最上級なのに、何故「the」が無いのか?
 僕は英語に疎いので、調べてみると、まず、最上級で「the」を省略するのは、
・ 副詞
・ 補語として使われる形容詞
 この二通りとのこと。
 ところが「Darkest Hour」は、このどちらにも該当していないように思える。
 慣用句でもないらしく、何かの間違いではないかと思って英文の映画の公式サイトを見ても、やはり『Darkest Hour』で「the」が無い。
 結局、わからないまま。
(何度もいうけど、タイトル、キャッチコピーなどの短いフレーズや詩などでは、文法がとっても大事。会話重視だけだとコミュニケーション不良を起こすおそれがあるので、要注意だ。)

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