映画の感想文 [1226] 小さな兵隊

【小さな兵隊】
原題:Le Petit Soldat
制作国:仏国
製作年:1960年
日本公開:1968年12月
監督:Jean-Luc Godard(ジャン=リュック・ゴダール)
出演:Michel Subor(ミシェル・シュボール), Anna Karina(アンナ・カリーナ)

===== あらすじ(途中まで) =====
 チューリヒに住むフランス人カメラマンのブリュノは、実は脱走兵であることから、極右組織OASのスパイとして働くことを強要されていた。
 新たなミッションとして、反対派のジャーナリストであるバリヴォダを暗殺するよう指令を受けるが、当然、やる気は起きない。ブリュノはモデルのヴェロニカと遊ぶことに熱心だったが、上司のジャックから本国へ強制送還させると脅され、いやいやながらもバリヴォダの尾行を始めた。
 しかし、殺すことができないうちに、敵対する組織FLNに捕まってしまう。

画像
この俺は真実なのか?

===== 感想 =====

● 鏡の真実
 ブリュノは鏡を見て、ふと疑問を抱く。俺は誰なのか、真実は何なのか、と。
 おそらくこれがこの映画の中で一番メッセージ性の強い映像だと思う。だけど、スパイという真実と虚構との交錯や、自分探しの自問やらと、ちょっとネタの古さが浮き出る。1960年という制作年代を踏まえてもなお、古い感じなのだ。
 一応、当時の学生レベルでは「じつぞん」だの「ふじょうり」だのが受けていた時代で、並の監督ならこうしたテーマも有りだろう。しかし、この監督はやたら理屈っぽく、しかもやたら哲学くさい台詞を好むので、この時代にこんなカビ臭いベタネタは無いわという感想になってしまうのだ。

● 駄弁
 実際、台詞の多くは、最近なら押井守が好みそうな駄弁のオンパレード。
 ところが主役のブリュノは脱走兵だ。一般に、戦争からであろうと、災害からであろうと、あるいは抽象的な責任からであろうと、裏切りとみなされるような「逃げ」をした者は、まず逃げたことの総括をしない限り、何を語ろうとも説得力を持たない。この監督は頭が良いので、そんなことは百も承知と踏まえたうえで、ブリュノにスペイン共和軍の敬礼をさせることで、論点回避を図ったみたい。
 まさに「説明」から逃げたのだ。

 まあ、僕は「説明」といった理屈より映像そのものの格好良さ重視なので、さほど気にならないけどね。

● 手持ち
 で、その映像だけど、やはり時代を感じさせるものの、やはり格好良さは群を抜いている。
 手持ちカメラを使い、やや引いたアングルでカメラを横に振る演出が多い。ガラスの映り込みの多用なども、アザトサがなく、すごくお洒落。
 BGMのピアノは場面のムードをそこそこ盛り上げていたな。

● スリルとサスペンス
 ところが全体の印象はさえない。

 そもそもスパイを題材にしながら、スリルやサスペンスといったものが皆無なのだ。少しもハラハラドキドキしない。
 この映画の制作の1960年といえば『サイコ』が公開された年で、かなりエッジの効いたスリルな映像を描けて当たり前。また3年後にはスパイ映画の大傑作『ロシアより愛をこめて』が公開されるわけで、かなりテンションの高いサスペンスを描けて当たり前の時代なのだ。
 なのにこの映画にはスリルもサスペンスもない。スパイを題材としながら……。
 監督が意図的にそうしているとしか思えないが、その理由は、馬鹿な僕には皆目見当もつかない。自称「えいがつう」のレビューを見ても、あまり触れることがなく、もしかして指摘してはいけない「お約束」なのかも――「フランス映画通」の間でよくあるやつね。

 まあ、この映画には、馬鹿には見えない深遠なテーマがあって、スパイのスリルやサスペンスなど、愚民が望む下世話なことということなのだろう。

● 志村けん
 で、愚民の僕が感じるのは、むしろコント的要素だ。

 特に暗殺未遂のくだりは間違いなくコント。標的の人物は、すぐ横や後で何度もブリュノに銃で狙われるのに、まったく気がつかない――ほぼ「シムラ、うしろ!」の状況。
 さらには上司のジャックはダチョウの上島のように水にドボン――ほぼ「押すなよ、絶対に押すなよ!」の状況。

 ブリュノが捕えられてからの拷問シーンも緩くて笑える。
 それまでの犠牲者のように瞼や舌を切り取るようなことはせず、マッチで手を焙ったり、両足に電気を通したり。体に拷問の痕を残したくないとテロリストはいうけれど、何をいまさら……。
 ブリュノはつま先から電気を通されて、体育座りで床をピョンピョン――ほぼ教祖様の「空中浮遊の修行」の状況。

 まじですか?

● 恋人自慢
 映像的に唯一と言ってよい見どころは、ブリュノがヴェロニカを撮影するシーン。ヴェロニアカを演じたアンナ・カリーナがものすごく可愛い。
 彼女はこの映画の公開の翌年に監督と結婚する。おそらく監督は自分の恋人をきれいに撮っておきたかったのだろう。
 あるいは自慢したかったとか?

● 総括
 ところどころ格好いいと感じる映像はある。一方、全体はスパイが題材なのにスリルもサスペンスもなく、コメディーなのに理屈っぽいなと感じる。
 以上。

 しかし、こんな感想を書くと自称「えいがつう」から笑われそうだな。
――おまえにゴダールは分からねえよ――
 はい、すいません。映画を「感じる」ことはできても、映画を「分かる」ことはできないタイプなもので……。


ジャン=リュック・ゴダールの映画の感想
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